日本人は何を求めどこへ?
日本人の店名の付け方は変わってきていることはこの10年をみてもわかります。一般人にはわからない言葉、日本語を含めて多量に出現中です。
日本人の店名へ好み、こだわりは昔と今、どこを目指しているのでしょう。
長寿名 継続の願い~長く愛して⇔旬の楽しみ
古いものはどこの国でも好まれます。
ただ、食べ物屋は続けていくのが大変で、雑誌でのインタビュー記事でフランス料理屋のガイド掲載の100店が10年後には20店になっていたことが書かれていました。
誰しも開店時は長く続けていけるように願い、その意味を込めた店名をつけます。
長く・・・
江戸時代からしられているのは蕎麦屋の長寿庵です。本家の大本は既に廃業していますが(「元祖長寿庵の碑」は銀座にあります)、4系統の長寿庵があります。。現存の一番古い店は総本家長寿庵くり多(旗の台、元目黒長寿庵)(詳しくはこちらのホームページかわかりやすいです→(にっぽん蕎麦紀行(http://www.nichimen.or.jp/kikou/) 冨永政美)
同種の意味で長生庵、万盛庵も見かけます。ただ蕎麦屋で有名な山形県の万盛庵は店を閉じたとのこと。こちらは元は浅草にあった{万盛庵 1890年」の繁盛ぶりにあやかり店名にしたそうです。
今、東京にある御徒町駅近くの万盛庵は万蔵さんが開いた蕎麦屋で、蕎麦の名目から採った店名とか (*2010年閉店)。お鮨やさんにも万盛鮨があります。
明治期の多くの西洋料理店の中にも「万代軒 淡路町 明治20年代(1880年代後半)、「永代楼 深川 1888年」、上の長寿と同じような「長栄亭 芝 1890年」など。
象徴する動物は鶴は千年、亀は万年の鶴と亀。江戸時代には多くの鶴屋亀屋があります。有名店は和菓子屋ですが、もうそのままの「亀屋万年堂(浅草橋亀屋近江からの暖簾分け) 自由が丘 1938年」が有名です。
植物では三寒の友と言われる松竹梅がシンボルとしては長くの定番です。こちらは何百というバリエーションがあり、日本人の植物好みがはっきり現れています
。和歌の松の枕言葉、常盤もあります。常盤食堂のチェーン店のような例もあり、
常葉のの流れの中にあるのが緑です。常緑樹のみどりが変わらないことを象徴するのでしょ。喫茶店や蕎麦屋、鮨屋の美登利鮨が有名。こちらは洋の世界に広がり、エバーグリーン、仏語ヴェール、伊語ヴェルデなど。
時代の流れで、オーガニック系、野菜料理中心の店名にグリーン、緑が使われ始めています。イート・モア・グリーン、グリーンキッチンなど。
江戸後期の食べ物案内に翁鮨、御蕎麦の翁屋が載っていますが、現在もこの業種に見られます。本来は消えていく店名の一つでしたが、1975年に南長崎に一茶庵系の「翁」マスコミに載って復活しました。店主が親方の片倉氏から深川にあった翁そばから名づけたのこと。こういう形で受け継がれるのは嬉しい限りです。
現在は「達磨」に改称、品川にその弟子が引き継いでいます。他の恵比寿の「翁」も復活組です。
短く・・・
1980年代から変わってきたのが長くではなく、変化への欲求。目まぐるしく、変わっていく時間の中でその頂点を味わうということで、材料の旬を味わうこと。その旬が1990年代にとても多く店名に使われます。
旬は上旬、中旬、下旬が示すように、10日を単位とする長さです。漢字の作り方の意味は竜が日を抱くイメージだとか。現在は人の人気の頂点を表す意味をも持ちます。
当初は店名にそのまま、旬(自由が丘)、庵しゅん(西麻布)、旬亭(下北沢)、喰いしんぼう旬(銀座)など。
今は組み合わせの事例がとても多く、旬彩、旬菜がその典型です。ショルダー名、本名の肩先付く料理の説明店名として多量につけられています。特に何の料理かわからないダイニングの業態が利用しています。
短さを象徴する動植物はまだないのですが、植物の桜の位置づけが変わっているようです。
ですが、その人気、はなやかさにあがらえず、大手の居酒屋チェーン「花の舞」(看板に桜が舞っています)、「さくら水産」、「咲くら」、「居酒屋さくら」があります。
カフェ、ダイニングも。最近オープンの六本木SAKURA食堂、表参道のSAKURA参道は日本的桜のイメージを弱めて利用しているようです。
つい最近出版された『語感辞典(岩波書店)』では卒業式や入学式のめでたい時にさくのでおめでたい気分を感じるとありました。確実に、和歌の西行の世界から遠くなりつあるようです。
短いというより、不確かな淡い語、「夢」も増えています。むの借音によく使われます。
待夢、夢民ほか。英語のドリームは喫茶店に多くありました。インドカレーの「夢屋 浅草 1984年」をはじめ、居酒屋夢や、ファミリーレストラン「夢庵」の大手も出てきています。夢の○○のように形容詞的にも使われています。
明治以降、夢に将来の希望のアメリカンドリームの意味合いが強く影響し始めているとのこと。 ★TOP頁へ★(長寿名) ☆初め・始め
初め・始め~出発良ければ全て良し
日本人は本当に最初にこだわります。お正月や出産、入学、結婚、家の建築など。めでたいものを飾り、食べ、時には神社に詣でます。めでたいこと、寿のことが続くよう祈ります。
お正月に出で来る松竹梅、鶴亀(長く参照)初○○が店名に使われます。
季節の始まりから
季節も春夏秋冬の最初の春にこだわった店名が多いです。日本のカフェの最初は画家松山省三氏が仲間との交流のため開いた「カフェ・プランタン 京橋(戦後青山) 1911年」、仏語で春のこと、劇作家小山内薫氏の命名で最初「カフェーリーブル」自由なカフェの意味でしたが、大逆事件直後で世の空気もあり変更。伊語の喫茶店「プリマヴェーラ 神保町 1978年」、イタリアン(麻布十番)の店もありますね。
鶯の初めての鳴き声からの初音、植物のつくし(つくしんぼう)、クローバー(つめくさ)、たんぽぽ、すみれ、エリカ、北海道の鈴蘭、アカシヤ(アカシア、仏語ミモザ)、リラ(ライラック)。
人形町の甘味処「初音 1832年開店」のように歌舞伎「義経千本桜」の鼓の名称から付けられたもの、女性の名前からつけられたものもなど、別の起源のものもあるでしょう。
1985年伊丹十三監督の映画「タンポポ」の影響もあるのでしょう。
「六本木クローバー 六本木 1932年創業」をはじめとする「クローバー」。こちらも四葉のクローバーとしてのラッキーアイテムからアクセサリー類の増加、JRのグリーン車のマークの利用等、春要素にプラスされると、増えていきます。。
春の植物名は全般としては減る方向、流行もありますが、医療に関係するもの、薬局、介護関連などに移行しているのが見えます。
これ等の利用者がこの店名がいっぱいあった時代の年齢の人が多く、親しみを感じるようにと付けられていると思います。
春風もありますが別称の東風の方が多いです。菅原道真の「東風吹かばにおいよこせ・・・」の影響でしょうか、お蕎麦屋さんが有名です。
元は地名とも考えましたが、地名は明治時代からの出現のようです。幕末頃から賀名として使われています。
最初は京都の神社、賀茂神社(下鴨、上賀茂)の神社紋、二葉葵から出で居るようです。
江戸徳川氏の三つ葉葵もこのバリエーションのひとつ。古代の古い一族、賀茂氏の出であることを誇りとしてこの紋は利用されていています。
食べ物屋は江戸末期、鮨屋の二葉鮨、明治からのとんかつ双葉が有名です。
江戸末期のガイド「酒飯手引草」に3軒の鮨屋と料理茶屋1軒が載っています。京都の蕎麦屋「二葉 1929年」や豆大福「出町ふたば 1899年」は両方とも下鴨近くが発祥なので神社紋に由来します。東京では大正・昭和と多く増え、双葉、二葉亭、二葉家、冨多葉、フタバ フタバヤ、その他、蕎麦屋、食堂にみられます。店種を選ばないようです。洋食「双葉亭 渋谷 1925年」、「ドゥーフィーユ(仏語) 日本橋 1980年」というフランス料理店もありました。
皆の始まりから(2017.1021追加)
一日の初めが朝。朝日、旭、暁、日の出は食べ物だけでなく、全業種に渡る店名の王者です。日本の国名、国旗にもなっているから当然といえば当然。
聖徳太子が「日出る国・・」と書面に記しているように、朝日の昇る国の意識が強いのですね。
サンライズ、ソルレヴァンテなど洋系は全体からみると少ないです。純粋に日本的要素の店名。
アサヒは蕎麦屋のチェーン、「朝日屋 渋谷(最初入谷稲廼屋1909年) 1912年、日暮里の2号店から」、「旭庵 銀座 1926年」鮨屋「旭ずし 鎌倉河岸(内神田2丁目) (江戸買物独案内1824年掲載)」「旭鮨総本店 下高井戸 1927年(最初蕎麦屋旭家、1948年より)」、西洋料理店「旭軒 本郷 1885年(上の写真の旭軒との繋がりは不明です)」
ラーメン屋にも多く、幅広い人気を獲得している店名。少しレトロの匂いがする日の出はレストラン、食堂があります。
旭と朝日、朝日のほうは意味の説明ですが、旭は字形として日が昇るイメージ。
「旭鮨総本店」は最初に「旭屋 1916年足袋屋として」を付けるとき、朝日の勢いよく昇る山川草木を初めにあまねく照らす原点として選び、旭の漢字は分解すると数字の九、十を満願とすれは九はまだまだ途中の自分への励ましとして選択しているそうです。(お店のHPより)
伝説的な明治の牛鍋屋「いろは 三田 1881年」はその数だけ店を広げるためにつけたとのこと。
同じ年代で「いろは寿司 神保町 1889年開店」は手習いのつもりで商売を始めたからとホームページにありました。時代の中でお好み食堂になったこともありますが、今は鮨屋に戻っています。
いろはは「伊呂波」「168(いろは)」「牛の五六八」「いろはにほへと」など変化してつけられています。
ABC、123は(いちにいさん、ひふみ、ワンツースリー、アンドゥトロワ)は意外と少ない。やはり123ではふるい「ひふみ」が比較的多いです。ギリシア文字のアルファはあ行が好まれる要素が加わって、多めですね。
写真のナンバーAは会社経営のカフェで、ここを基点にカルチュアーが生まれ、広がってほしい想いの店名(青山カフェ)
ちょっと違う系統で、最初のあ、最後のんの組み合わせ、阿吽があります。寺の門にある仁王の阿形、吽形の像が影響か、向田邦子さんの小説の影響かよく見かけます。
各々の始まりから
開店日を店名にしたり、自分の出発点を店名にする例は多数あります。世間的に大きな出来事、店名にする例は「つばめグリル」急行列車つばめ開業の年に開店。
日露戦争の勝利を祝っての店名とのこと。帝国ホテルのシェフ村上信夫氏の実家も日露戦争勝利の気分で「萬歳亭」としたとのこと(東京フレンチ興亡史より)
個人的なものは現代のカフェのチェーンドトールコーヒー創始者がコーヒー修行をしていたサンパウロの暮らしていた通りドトール・ピント・フェライス通から、居酒屋坪八は狭さ8坪から店を始めたこと。カフェ「エイト」は8人で始めたことから。
ピカピカの新店、「夜食屋275 白金 2010年頃」は資金275万円ではじめた店とか。
トラットリア「29(ヴェンティノーヴェ) 西荻窪 2011年開店」は開店日と肉メインのニクにも掛けています。
最初の頃ににあったエネルギー、勢い、想いの強さを再確認するために使われていると考えます。
★TOP頁へ★(長寿名) ☆初め・始め