年も明け、いよいよ『キル・ビル』も後篇のポスターや予告篇が出回り始めた。まず、ポスターは本国バージョンから。未だにビル本人の写真は掲載されず、なぜか死んだはずのオーレンやその一番子分のジョニー・モーの横顔が並んでいるが、やはり、今回はマイケル・マドセンとダリル・ハンナの二人との戦いがメイン(もちろんビルもだけど)と言う事でウマ・サーマンにならんでマイケルの横顔が中心に据えられている。また、ハットリハンゾウ刀にはなにやら怪しげな中国語が書いてある上に、キルビルの文字に復讐の二文字が書き込まれている(それにしてもヘタな字やなあ)それから、予告篇はなぜか第一号が日本のサイトから発表された。詳細はhttp://www.killbill.jp/ にあるのでチェックすべし。面白いのは後篇は、ラブ・ストーリーで売ってゆくらしい。何にしても2月のアメリカ公開から2ヶ月遅れでゴールデンウィークに公開する呑気さにも関わらず、もはや勝手とも思える予告篇であるが、今からずっと、煽っていただけるのならそれも面白いかもしれない。
さて、Volume1の検証の続きであるが…
ついに、クライマックスの青葉屋である。まずこの青葉屋なのだが元ネタになった店が東京西麻布にある。それがブッシュ米国大統領も立ち寄った事で知られる『権八(ごんぱち)』である。まだ訪ねた事はないが、今のジャパニーズ・ポップ・カルチャーの一つである、見かけだけの懐古趣味を形にした和風居酒屋である『権八』は、味はともかくちょっとしたテーマパークの様な雰囲気を持ち合わせている。そんな店の雰囲気をそのまま取り入れた『青葉屋』の注目すべき所は、ハウスバンドのThe 5.6.7.8.'sが演奏する能舞台と、池田屋事件で有名な池田屋のような長い階段、そして石庭をガラスで封じ込めたダンスホールのインテリアである。そこにオーレン石井の一行が大物らしく闊歩しながら入場するのだが…

キル・ビル Kill Bill vol.2
2004年作品 MIRAMAX シネマスコープ 
製作 ローレンス・ベンダー
監督 クエンティン・タランティーノ
出演 ユマ・サーマン ダリル・ハンナ デヴィッド・キャラダイン マイケル・マドセン サミュエル・L・ジャクソ ect.

ここで流れる音楽が、布袋寅泰が出演し、曲も提供した2000年製作『新・仁義なき戦い』のテーマ曲である。以前からこの映画が気になっていたので、このコラムを掲載する前にDVDを鑑賞した。そして、驚きの発見をしたのだ。なんと、『新・仁義なき戦い』でも『キル・ビル』でも、共通しているのはこの曲が流れる時に、ヤクザの一行がスローモーションで登場するのである。タランティーノがこの映画のテーマ曲を気に入って、布袋寅泰に使用許可の打診をして、布袋が新曲を提供するという好意を引き止めた理由がついに判明した。なんと、彼は『新・仁義なき戦い』から音楽のみならずそのシーンを音楽ごと、まるまる拝借していたのだ。なんと言う大胆さ!しかし、タランティーノの大パクリ(許可は得てるし、ある意味オマージュではあるのだが…)はこの後も次々と登場してくるので、これくらいで驚いてはいけないのかも知れない(笑)さて、オーレンの一行を先導するのが、オーナー役の風祭ゆきとマネージャー役(なのかな?)の佐藤佐吉の二人。実はこの二人に加えて、更にクレイジー88のメンバーの田中要次(BOBA)と、ゴーゴー夕張に『フェラーリなんてどうかな?』とナンパをした挙げ句に彼女に短刀で腹を斬られて、内臓をぶちまける元も子もない死に方をしたサラリーマンを演じた森下能幸に共通する映画がある。それが、『殺し屋1』(2001)であり、彼らはこの出演者および脚本家なのである。タランティーノは余程この『殺し屋1』が気に入ったらしく、その出演者が多数『キル・ビル』にも出演しているのだ。しかも、脚本家までセリフを与えて演技をさせるとは?しかし、この脚本家の佐藤佐吉はなかなかの演技者で、残酷な描写前の笑いを一手に引き受けている。チャーリー・ブラウンに丸顔が似ていて、更に黄色に黒のギザギザ模様の着物がとても愛らしい。「チャーリー・ブラウン。あんたもだよ!」とオーレンに言われるまで、呆然と立ち尽くすその演技はとても印象的なのだ。
さて、オーレンの一行をバイクで付け回していたブライドも、勿論『青葉屋』に来ていた。ここで彼女は二階の座敷にいるオーレンの様子を見にいくのだが、連中がしょーもないシモネタに湧いている中、オーレンは外の気配に気が付き、かんざしを投げる。この雰囲気はまさに時代劇そのもの。日本ではとても見なれた展開なのだが、あまりにも定番すぎて、ついつい、これがアメリカ映画だった事を忘れてしまうほどだ。オーレンに指図されて、様子を見に行くゴーゴー。そこで初めて彼女は、自分の短刀を取り出す。すると、なんと携帯ストラップのようなピンクのビーズのストラップが付いているおしゃれで可愛らしい短刀だ。さすが、女子高生らしい持ち物だな、と感心してしまったが、これは衣装を担当した小川久美子のお遊びなのだろうか?ひねくれたこの映画になるほど、相応しい悪役の持ち物だと思う。
ここで、ブライドは天井に張り付いてなんとかピンチを逃れたが(このくだりは、まるで『ルパン三世 カリオストロの城』に出てくるシーンのようなのだ)、この後、ソフィ・ファタール(ジュリー・ドレフュス)とトイレでばったり出会った後、血の惨劇は始まってしまう。ここで、また注目すべき部分が、ハウスバンドのThe 5.6.7.8.'sである。彼女たちの演奏は劇中、ちらほらと映り、演奏曲もサントラに収録された『Woo Hoo』と他にも、『I'm Blue』を披露しているのだが、これがまたヘタウマと言うか、ハッキリ言ってかなりヘタなのだ。しかし、タランティーノが来日した某日に恵比寿のショップで流れていた彼女たちのCDを、現場で買い取ってしまうほど気に入ったからもう大変!自分は全く知らなかったのだが、90年代初めに結構人気のあったガレージバンドだったらしいThe 5.6.7.8.'sは、当時も今も勿論インディーズ。年齢は?それは聞かない方がよろしかろう(笑)。どうにも、ママさんバンドにしか見えない彼女たちなのである。そのThe 5.6.7.8.'sが『Woo Hoo』を演奏し始めた時にとてつもないカメラワークが展開される。シーケンスとしてはブライドが黄色のバイクスーツを脱ぐためにトイレに行き、その後にソフィがトイレにやってくるというくだりなのだが、なんと1分ほどのシーンをワンテイクで見せてしまうのだ。カメラは歩くブライドの後ろを追っかけるのだが途中でクレーンを使って、俯瞰ショットになる。カメラはそのまま下りて来て彼女がトイレに着いてから着替えを始めると、次第に離れてダンスホールの方に戻り、今度は二階から下りてくるソフィの真後ろをぴったりとつける。そのまま、トイレンに向かう彼女の後をづっと付いて行くカメラ。さてこのショットを一体どうやって撮影したのか、映像の仕事をしていても、全く分からない。しか、しこのショットを成功させるまでの苦労は測りしれない事は想像がつく。ここで初めて、名カメラマン、ロバート・リチャードソンの事を意識した。このカメラマンは、マーティン・スコセッシ監督の『カジノ』や、オリバー・ストン監督の全作品を関わり、『JFK』ではその新しいアイデア(8mmカメラなどを多用したドキュメンタリータッチの映像作り)で、アカデミー賞も受賞するほどの大物カメラマンである。タランティーノとは初めての顔合わせだが、オタクチックな監督の「サイテー映画の見かける様な映画の雰囲気で撮影してくれ。」というヘタウマ撮影のリクエストにも見事に応え、そしてこの素晴らしいショットに、彼の巨匠としての力量を思いきり見せられたという感じである。もし、もう一度『キル・ビル』を観る機会があったら、是非ともこの素晴らしいシーンをじっくりと堪能していただきたい。
さて、この後すぐにブライドの「オーレンイシ〜イ!ショゥブハ、マダ、ツイチャイナイヨォ!」と雄叫びをあげるシーンで惨劇の火ぶたは斬って落とされるのだが、またまた長くなりそうなので、次回に続く事にする。ゴメン!
 
 
 
 
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