T.R.Y.
2003年1月11日公開
全国東映系
出演 織田裕二・黒木瞳・渡辺謙
監督 大森一樹

『猟奇的な彼女』に引き続き、新作DVDを自宅シアター(その全貌は近日公開予定)での上映を行った。今回選んだ作品は、やはり公開当時に時間に追われて観なかった織田裕二の新作『T.R.Y.』を借りて来た。どうにも、『パイレーツ・オブ・カリビアン』を観に腰をすえる時間が取れない。HPの更新も結構時間がかかり映画を観に行く時間を惜しんでもこのページを更新したかったのだ。
しかし、今回の上映会では非常に憤りを隠せない日本映画界の真実にせまることになってしまった。まず左一枚目の写真を観て欲しい。これは織田裕二演じる伊沢修が中国革命派に協力を頼まれて承知した後に昔の仲間のパク・チャンイクがその事を聞き付けて久しぶりの二人の対面という感動のシーンである。その後に、上海郊外で二人で歩きながら昔を回想するシーンになるのだがこのアップで捉えたシーンが左の2枚目を見て分かると思うが非常に画質が荒いのである。まるで、家庭用のデジタルカメラで撮った画像のようにざらざらで、商業映画とはまるで思えない。そして、そのアップでの会話は延々1分程続く。更に、アングルの変わった直後のカット(3枚目の写真)を見よ。
明かに画質が違うし、へたをすると別日の撮影なのかもしれない。撮影を首尾一貫して行わない方法は映画を作る上で当たり前なのだがが、なんとも許しがたいのがこの画質の悪いシーンを平気で使用している点。これだけで既にこの映画の製作者のやる気の無さを感じ取ってしまい、もうあまり観る気も失せてしまった。
この映画の画質がひどい事に憤りを隠せないのにはそれなりの訳がある。まず、自分が映画とは違うが映像処理を仕事としている事。テレビやビデオの世界でも、アマチュアとプロの境目をはっきりと区別するために、『放送出来る範囲の画質や音質』の基準と言うモノがある。隠しカメラや投稿ビデオはさておき、プロが撮ってきたからには光源の低い映像は使えない。やむを得ず、編集の時点で明るくする処理を行う事も度々あるのだが、これは予算が少ないテレビやビデオプログラム(VP物)の場合。CMや映画はそれなりの予算を組んで作る以上、適当な部分はあってはいけないのだ。だから、2枚目の写真の様なひどい画質(まるで隠し取りの様な映像)なら、日を改めて撮り直すべきなのだ。それが出来ない所が、日本映画の辛い現実なのかもしれない。
自分が映画に入れこみがあるのに、決して日本映画の仕事に興味を持たないのは、妥協のあげくヒドイ映画になっても目をつぶる現実があるからなのだ。それにしても、この映画のDVDはいわゆる高画質・高音質をほこるHi-Bitディスクということだが、映画の内容もへなちょこながら本編の画質も元来のひどさが反って浮き彫りとなってちょっと空しい物を感じた。映画では後半に機関車の衝突で引き起こされる大爆破のシーンがあり、かなり大がりなセットからし

伊沢(織田)と昔の相棒であるパク・チャンイクが久しぶりの対面を果たす

上海郊外で昔の話に華が咲く二人だが…なんだこの画質の悪さは??

その直後のシーンは普通なカットなので反って変なのだ
クライマックス近くの爆破シーン かなり派手である

て、こちらの方に予算の殆どを廻しているのではと思われるほどに派手である。ましてや、一応の中国ロケなので現地での費用が予算をオーバーしたのかもしれない。とにかく、もっともらしい話の様に見えて奥が深くないから驚くシーンも感心するシーンも無いのが残念でならない。織田裕二も渡辺謙も黒木瞳等日本の俳優陣は決してヘタでは無いのだが、織田裕二の役はミスキャストまたは役作りの方向が間違っていたと思う。上海や韓国の俳優も多数参加しているが調子の狂った日本語に演技のうまいヘタも分からない。中国革命を謳うシーンでもその迫力が伝わってこないのだ。結局どうにも見苦い、それだけなのだ。更に、この映画のヒロイン的存在である丁愛鈴役を演じるヤン・ローシーは全くの大根である。しかし、彼女の演じる役所がはっきりと示されないので女優自身も混乱していたのかもしれない。そうなると、やはり制作スタッフに問題があることになる訳で…
監督は大森一樹である。この人、森田一芳監督と並んで日本映画に新風を興す監督になるはずだったのにずっと商業映画ばかり作っていてしかも思い出される傑作も無い。80年にはATGで『ヒポクラテスたち』という傑作も作っていたのに…
今回 初めて、大森監督の経歴を見てびっくりした。ハッキリ言って凄いです、この人の学歴と資格。『京都府立医科大学卒業。'83年医師国家試験合格 』ですよ。その間に医学知識を生かした映画を撮っているのにも関わらず、84年には『すかんぴんウォーク』(東宝)から始まり、その後吉川晃司映画を経て、ゴジラ映画を経て、東映映画『走れ!イチロー』の後がこの映画と言う訳で、残念ながらATGの『ヒポクラテスたち』で終わっていた監督だということが分かってしまった。でも何故、医者になれるのに映画人なのだろうか。本当に不思議な監督である。医師の知識がふんだんに有るのなら、医学ミステリーのみ撮る監督でも面白いのに…と勝手に思う。映画は現在一番安く見る方法で1000円と言うのもあるが、普通は1800円と考えるものだ。商業映画として公開するのなら、アメリカ映画の品質と並べるとまでは行かなくとも恥かしくない映画を出して欲しい。先日の『猟奇的な彼女』はそう言う意味では非常に関心する映画であった。やっぱり映画は脚本をしっかりと仕上げる事が大事なのではないだろうか。最近、黒澤映画のドキュメンタリーを読んでそう思った。今回の『T.R.Y.』は失敗作だったが、決して日本映画も捨てた物ではない。近日公開予定の『ドラゴンヘッド』等はかなり期待はしている。ただ、『バトル・ロワイヤル2』を結局観に行かなかったのはやはり、映画の作り方に不安を感じた(監督の死去に伴い、息子が継いだ事など)のは事実。『ピンポン』を未だに観ていないのもちょっとした不安があるからなのだ。でも、『踊る大走査線2』は映画らしく仕上げる事に徹したスタッフの意気込みを非常に感じ取れる映画だった。だから、日本映画も海外の映画同様に観るし、期待作もあるのだ。

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