今回は、番外篇である。題して『ついに解明!アメリカ版のキルビルはお子様向け映画だった(笑)』。予告したタイトルと全然違ってしまったが、それが真実なので仕方が無い。
アメリカ公開版の『キル・ビルvol.1』だが、日本版との決定的な違いは本編の尺である。日本版が113分に対してアメリカ版(事によるとインターナショナル版なのかもしれないが)は103分とデータバンクにはある。と言うとこですでに10分もの長さに違いがあるのだが、基本的に日本版にあってアメリカ版(国際版と呼べるのか確かではないのでアメリカ版で共通する事にする)に無いシーンというものは無かった。タランティーノも日本版をディレクターズカットのような扱いにしている訳ではないらしい。とにかく、アメリカのレーティングにそぐわないカットをつまんで結果的に10分ほど短くなったようである。このせこせこカットされたもの全てを把握する事はよほど同時に日本のバージョンを流して検証しないかぎり不可能に近い。ただ、明かな部分が三か所ある。一つは、アニメーションパートで、11歳のオーレン石井が、松本親分を惨殺する時に一瞬映る内臓がはみ出た傷口がカットされ、流れをスムーズにするため前後のシーケンスも少しつまんであった。それから、問題の青葉屋の決闘シーン。ジョニー・モーの一味が遅れて到着してからの決闘シーンはかなりつまんである様だ。しかしそれも、やはり同時に再生して違いを探さない限り決して分からない編集が施されている。更に、ジュリードレファス演じるソフィ・ファタール は日本版では両腕を斬られるがアメリカ版ではもう一つの腕が斬られるシーンは音声のみになっている。このシーンでも編集の都合で前後のシーケンスが短くなっている。
…と、ここまでが 10分の上映時間の差の違いについての検証である。しかし、一番決定的に違うのは『日本版はオールカラーであるのに対して、アメリカ版は白黒だ!』と言う事である。どこのシーンだと言うのは明かでいわゆる最悪の残虐描写に挑戦した『青葉屋』の殺陣のシーンなのである。
アメリカのレーティングは、ポルノ的要素以上に暴力的な描写について厳しくて有名である。かのポール・バーホーベン監督はハリウッドデビュー作である『ロボコップ』で操作不能になったテストロボットが誤射で会社役員を撃ち殺すシーンを殊の外長いシークエンスで血みどろに撮影した。彼にとっては本国オランダでの映画と同じに撮影したのだが、その過激な描写がレーティングに引っかかり、数秒のカットを余儀なくされた事が有る。しかし、タランティーノはアメリカの監督であるので

キル・ビル Kill Bill vol.1
2003年作品 MIRAMAX シネマスコープ 113分
製作 ローレンス・ベンダー
監督 クエンティン・タランティーノ
出演 ユマ・サーマン ルーシー・リュー ダリル・ハンナ 千葉真一(ソニー千葉)  栗山千明 ヴィヴィカ・A・フォックス 國村隼  ect.

さすがに始めからレーティングの事を考えて白黒でチャンバラを見せる予定でいたようだ。タラの脳裏には、後にDVDで発売する時にきちんとしたバージョンで見せればいいだろうと言う事のようだ。何故、そうも言い切れるのか。まず、白黒になったしまった青葉屋の決闘シーンなのだが、その白黒になるタイミングが面白いのだ。この後のパート5でも触れる事になるのだが、オーレンの7人の手下(ゴーゴー含む)とブライドの戦いでは、カットも白黒画像処理も取りあえず無くたんたんと進むのだが、問題なのは、ジョニー・モーと残りのクレイジー88メンバーとの戦いで、ブライドに斬られ、数えて10人目にして目玉を抜かれる(なんちゅう描写だ)瞬間にパッと白黒になる。実は、この描写から突如として残酷なカットが増え続けるのである。その詳細はパート5で語ろう。さて、この白黒のコーティングの中でクレイジー88のメンバーはそれはもう、画面いっぱいに血を振りまいているのだが実際、グロテスクな雰囲気は微塵も感じられない。吹き出す血潮もひとつひとつのカットが短すぎて全く残虐に見えず、むしろコミックリリーフの様である。それこそj実はタラの狙いなのである。この白黒画面の中で血が噴き出すシーンはまさに『椿三十郎』の中の衝撃のラストを飾る室戸間平の死に様をクローン化したようでにも思えるが、『椿三十郎』にしても、その残酷度は極力抑えられ、なおかつ、センセーショナルなシーンであった。黒澤監督の事はどうでも良いや♪と思っていそうなタラだが、無意識に良いエンターテイメントのお手本である黒澤の映画技法を引用しているのかも知れない。
しかし、日本版は目玉を引き抜こうが体をまっぷたつに割かれようが、描写は引き続きカラーのままである。レイティングは厳しくない代わりに、中学生以下の鑑賞を禁止する事(R-15)となった。これは、タラのリスペクト監督である故深作欣二監督の遺作『バトルロワイヤル』がそうであったのと同じなので、タラは「やったー」とほくそ笑んでいるかもしれない(恐ろしい)。しかし、さすがにオールカラーで観続けると、かなり血がぴゅーぴゅー吹出ているので生理的な刺激が強い。特に後半で、手足ぶった斬り大作戦のシーケンスでは、軽快な曲と地獄絵のようなカットがカラーで観るのと白黒で観るのとでは、印象の違いが有り過ぎるほどだ。そんな白黒のシーンは都合9分続く。白黒から開放される瞬間なのだが、これがまた面白い。ブライドが、残り数名に追いかけられて二階に上がった時、風祭ゆきが青葉屋の電源を切るのだが、その一瞬前のブライドの瞬きに併せてカラーに戻るのだ。なんとも洒落た方法である。なお、余談であるが、風祭ゆきが電源を消してまた再び点けるシーンは消している人物が風祭だと認識するまで本当に3回の鑑賞が必要だった。また、面白いのは電源盤の横に注意事項の張り紙があり、そこには『閉店後、○○を済ませ電気を切って下さい。店内で、もめ事が起きた場合も、電気を切って下さい。』と書いてある。○○の部分は字が汚すぎて解読不能だった。それにしても、その注意書きは通常の鑑賞では読む事は決して出来ないし、読めても字が汚な過ぎて判別不能である。また、もめ事があると電気を切る?その利点はなんであろう。結局、風祭ゆきはオーナー(やとわれ店長?)の役割を果たした事になったのだが、それが理解出来た観客はほとんどいないであろう。自分も初めて観た時は『老いぼれた警備員が電気を消す』ように思った。
以上、アメリカ版と日本版の大きな違いである。もちろん、梶芽衣子姐の『怨み節』はアメリカ版でもきちんとエンディングで流れるので安心を(笑)ただし、オープニングの「この映画を偉大なる監督、深作欣二に捧ぐ」という文句(英語)は、日本以外の上映では、"Revenge is a dish best served cold"- Old Klingon Proverb - と書いてある。日本語にすると、『復讐は冷たいうちが美味い』古いクリンゴンの諺より〜である。これは何?と思う方も多いので簡単に説明すると『クリンゴン』とはTVシリーズ『スター・トレック』に登場するクリンゴン星の事で、その星の住人は粗暴な種族であり、シリーズではいつも悪役として登場する。ここでは、そんな人気テレビシリーズのキャラクターの言葉を引用したというわけである。トレッキーと呼ばれるスター・トレックのファンには分かるシャレのつもりなのか?!とにかくそんな、一般客が思わず退いてしまう言葉の引用がこの映画の冒頭を飾っているのである。そして、中盤にある千葉真一の『武士たるもの。…』演説も健在であるのが驚きとも言える。また、後半からの日本語合戦に於いてはアメリカ版では黄色の字幕が付く。この字幕こそ前回紹介した、タラの脚本に書かれた言葉である。ボリューム2は本国では2月20日から上映予定であり、日本は4月までお預けなのである。もし、今度は内容に違いが無いのであるならば飛行機に乗って観に行きたいのだが、果たしてどうなるのであろうか…。とりあえず、part5に戻りたいと思う。
 
 
 
 
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