さて、懲りずにVolume.2に突入したい。今回は、映画の中で使用されたグッズにこだわってみようと思う。なお、ネタばれの批評はVolume.3にする予定なので(まだ続くのか…)これから、観る人は安心して読んでいただければ幸いである。
前置きはさておき、まず、左の靴の写真に注目して欲しい。これは、某ネットオークションにて出品されているアシックス社の「オニツカタイガー」ブランドの太極拳用のシューズなのだが、この黄色に黒のストライプは本編でユマ・サーマンがルーシーリューとの決闘の際に履いているものなのだ。それと同じシューズを世界限定3400足の「キル・ビル・モデル」として10月初頭より一斉に発売したのだが、専門店を含む取り扱い店では軒並み即日完売で、たかだか1万円のカンフーシューズが今や4倍ほどで取り引きされている。欲しいのだがこれほど値が上がると馬鹿らしくて履く事も出来ないので、他のモデルの黄色チックな「オニツカタイガー」を購入した(結局なんかしら映画にまつわるグッズを身に付けていたりする…)。この「オニツカタイガー」にタランティーノがこだわった理由は、この太極拳シューズをかのブルース・リーが愛用し、実際に彼の出演作でもこの靴を履いていたことから、ブルース・リーをリスペクトする気持ちを表現しているからに他ならない。しかし、「キル・ビル」という映画のではリスペクト(またはオマージュ)という言葉から連想される要素はあまりにも多過ぎる。あまりにも多いので映画に詳しいと混乱してくる事も多々有るのだ。例えば、2枚目の写真にある「PUSSY WAGON」。すでに、先日の批評Volume.1で紹介したのだが、この文字体と派手な色合いそのものが、70年代の金儲け主義の娯楽映画(専門的にはエクスプロイテーションフィルム)へのオマージュなのだ。金儲け主義映画とは、まさに娯楽映画の王道であり、もう少し砕けた表現をするなら「ブロックバスター・ムービー」もこのジャンルに入る。ある一定層の客に喜ばれるジャンル映画とも取れるのだが、70年代は黒人層に受ける為に白人を悪役に据え、黒人のヒーロー(またはヒロイン)が、白人の悪者を退治

キル・ビル Kill Bill vol.1
2003年作品 MIRAMAX シネマスコープ113分(93分)
製作 ローレンス・ベンダー
監督 クエンティン・タランティーノ
出演 ユマ・サーマン ルーシー・リュー ダリル・ハンナ 千葉真一(ソニー千葉)  栗山千明 ヴィヴィカ・A・フォックス 國村隼  ect.

するといった単純明快な勧善懲悪アクション映画などの作品群は、明らかに黒人層を惹き付ける映画である。そういうジャンルの映画では、タランティーノが敬愛し、彼の前作「ジャッキー・ブラウン」の主演も務めたパム・グリアー主演の「コフィー」を代表格とし、他にも「スーパーフライ」や「黒いジャガー」など、70年代に多くの黒人ヒーローアクション映画が製作されたのだ。
そして、何よりも忘れてはいけないのが、タランティーノの日本映画と香港映画へのオマージュであろう。「キル・ビル」そのものは2部作になってしまったので、トータルにおいては、「マカロニ・ウェスタン」「チャンバラ映画」「カンフー(クンフー)映画」「ブラックアクション映画」「ジャパニメーション」「ジャパニーズ・バイオレンス・スプラッター映画」「怪獣特撮映画」等々、非常に多くのジャンル・フィルムのエッセンスを取り入れている訳なのだが、ここで気付く事が、緑文字で上げた映画のジャンルは全て日本映画なのだと言う事。それほど、日本映画のありとあらゆるジャンルに対してまさに「リスペクト」している映画なのだ。そうこうしている間にもう一度「キル・ビル」を観てきたのでオマージュの要素を簡単に挙げてみようと思う。なお、この映画の列挙は決してネタばれではない。
千葉真一 彼が出演している事が、彼の代表作「影の軍団」「柳生一族の陰謀」「八犬伝」などへのオマージュ以外の何物でもない。ちなみに、彼と共演している大葉健二は、やはりジャパン・アクション・クラブ出身で、あの「刑事ギャバン」である。これで戦隊モノヘノオマージュも伺える(笑)。
栗山千明  もはや説明もいらないだろうが、深作欣二監督の遺作であり最高傑作とも言える「バトル・ロワイヤル」において、柴咲コウを凌駕するほどのナイフさばきを魅せた役がそのまま映画から飛び出したような制服姿の恐怖の女子高生を演じている。その役名の「ゴーゴー・ユウバリ」は勿論、漫画「マッハゴーゴー」(←アメリカでは「スピードレーサー」と言う。)と、夕張ファンタスティック映画祭(かつてタランティーノを招聘したことがある映画祭)から取ったというから驚きだ。
ルーシー・リューの演じる
オーレン石井と言う役名は、日本のバイオレンス映画を支えた石井聰亙 監督(「逆噴射家族」)石井輝男監督(「江戸川乱歩全集 恐怖奇形人間 」「網走番外地」)石井隆監督、石井克人監督の名字から、そして「影の軍団」にて志保美悦子が演じた忍者お連を元ネタにしている。
他にも、殺陣は、勝新太郎の「座頭市」シリーズと若山富三郎(勝新の兄)の「子連れ狼」を、アニメーションは、プロダクションI.G(代表作「甲殻機動隊」)が製作したことから、すでに甲殻機動隊のテイストがばっちり入っている。また、深作欣二の名前を世に知らしめた「仁義無き戦い」シリーズの最新作である「新・仁義無き戦い」のテーマ曲が(出演もしている布袋寅泰 が作曲・演奏!)そのまま使われている上に、日本版(アメリカ公開版より長いインターナショナル版)では、冒頭で「深作欣二に捧ぐ」と特別のクレジットまで入れているのだからその「リスペクト度」も最上なのであろう。他にも、三池 崇史監督の「殺し屋1」←この映画はタランティーノには悪いがかなり酷い映画である…への「オマージュ」も顕著で、國村隼を始め、風祭ゆき、SABUなど、この映画の出演者がてんこもりなのである。他にも、麿赤児などのアクの強い俳優も健在で、アメリカ映画にこれほど大挙して日本人が出演し、また日本人が製作や衣装、デザインなどに関わった映画も無いだろう。自分が個人的に嬉しかったのは、「スワロウテイル」の美術を担当した種田陽平が作ったセットと、やはり日本人の衣装デザイナー、小川久美子(「セーラー服と機関銃」)が栗山千明の為に作った制服の衣装。日本人が関わる事で決しておかしな事にはならず、それでいて実際にはない映画的表現を多彩に込める事に成功しているのが非常に嬉しい限りである。しかしながら、最近になって日本描写がそれほど変では無くなっているのも事実である。余談であるが、タランティーノは、アメリカでは「スパゲッティ・ウェスタン」と呼ばれているイタリア製作の西部劇映画を日本で「マカロニウェスタン」と呼んでいることまで知っているそうだ。それはかなり驚きである。
さて、Volume.2ではグッズの話に始まり、タランティーノの映画へのリスペクト度合いを検証する形でここまで来てしまった。実はこれだけの情報を事前に知って観た方がこの映画はより一層楽しめるのだ。決してストーリーに触れない様に気を付けたVolume.2だったが、いかがだったであろうか?

さあ、これで安心して「キル・ビル」を観に行って欲しい!

しかし、もしこのVolume.2を読んで嫌悪感を持たれるのなら観ないと決めた方が良いかもしれない。折角の2部作である。前半を観て「もう後半を観る気がしない〜」など言われては映画が可愛そうなので…(笑)
さて、この先でお約束のネタバレ批評Volume.3に突入する。映画を既に観た方。この批評の後に映画を観た方、また、もう待ちきれないから読んでしまえ!と豪快に言い切る貴兄。全ての皆様に、kayが2度目の鑑賞後の検証および解説をじっくりと書き上げるのでお楽しみに♪

 
 
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