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スパイダーマン2 spider-man2 米国 2004 127分 
Cinema Scope Size 評価☆☆☆☆☆

2004年7月4日執筆
 
 
「面白かったなぁ。」「いや、今年の中でベストだろ!」大学生らしき青年二人が、上映後興奮しながら話しているのを見かけた。上半期を終えたばかりですでに彼らにとって「今年のベスト」と太鼓判を押された【スパイダーマン2】は、まさにその一言が全てを物語っている。それは、たとえ彼らが今年のヒット作を網羅していなくても、本作はずば抜けた傑作エンターテイメント作品だと言えるのだ。重厚な人間ドラマを中心にしながらも、コメディ的要素とアクション映画らしいハラハラさせる展開を直列させ、最後には観客を主人公と一体化させる演出の妙など、一本分の映画料金で三本の映画を観たような気持ちになる。クーラーがきいているはずの館内は、いつのまにか観客の興奮の熱でヒートアップし、映画終了には汗まで吹き出てくるこの快感は、はるか昔に観た【スターウォーズ】や【インディ・ジョーンズ】を彷佛とさせるのだ。
 
  それほどまでに好感度の高い【スパイダーマン2】、同じ週の水曜日に始まったアメリカでは、初日興行収入の興行成績を塗り替えたという。もちろん瞬間的な記録は作品のクオリティと一致しないが、この作品は前作の評判から生まれた口コミで、観客の期待は高まったのだろう。このままゆけば、興行成績は間違いなく前作の記録を抜き、歴代トップ3を狙えそうだ。日本でもこの人気は波及し、【ハリー・ポッター】は申し訳ないが7月10日以降は間違いなく1位の座を譲る事になるだろう。


  しかし実際、本作がヒットするのは必然だったのではと思われる節もある。続編とうたっているが、前作は前夜祭のようなもの。本作こそシリーズ1作目のような印象を受けるのは、まさにサム・ライミ監督の計算された戦略だったのだ。しかも、【チャーリーズ・エンジェル】や【オースティン・パワーズ】のような、前作のあおりを受けて予算が大きくして作った豪華な続編とは全く別な考え、つまりタランティーノ監督の【キル・ビル】のような、前編と後編のような関係の方が分かりやすい。
 
  映画化になるまでのいきさつも長かった【スパイダーマン】が、今後もシリーズ化するのは十分考えられたゆえに、ライミ監督が1作目に盛込んだストーリーは、まさに本作への「お膳立て」だった。その辺を語るのに少しばかりアメリカン・コミックスを紐解いてみよう。
 
  アメリカの3大ヒーロー・コミックスと言えば、【スーパーマン】【バットマン】、そして【スパイダーマン】であるが、各作品とも毛色が違うのが特徴と言える。【スーパーマン】はご存じ宇宙人である。重力と密度の違う星からやって来たカル・エル(スーパーマン)は、地球では超人的な力を発揮することが出来た。その能力を生かし、地球の悪と戦うヒーローこそスーパーマンである。映画【キル・ビル vol.2】で、ビルが「生まれながらのヒーロー」であり、その宿命から逃れる事が出来ない、と言ったのがスーパーマン。
 
  それに対して【バットマン】は、大金持ちのブルース・ウェインが、幼少から地道に努力して体を鍛え上げた人間のヒーローである。人間だから飛べないのだが、科学力を結集させた秘密兵器でアクロバット飛行も可能にさせ、超人的活躍を見せてくれる。
 
  さらに、【スパイダーマン】は、普通の高校生、ピーター・パーカー(以下ピーター)が体内に遺伝子操作された蜘蛛の能力を取り込んでしまう事で生まれたヒーローである。つまり、各人が「必然」「努力」「偶然」と、違った運命を背負っていると言えよう。
 
  この三作品がすべて映画になった今、それぞれの映画作品を振り返ると面白い事が見えてくる。これは宿命だが、シリーズ1作目は必ず各ヒーローの生い立ちが語られる。【スーパーマン】では、生まれ故郷の悲劇から始まり、クラーク・ケントとして新聞社に勤めるまでのいきさつにかなりの時間を割いている。一方、【バットマン】はフラッシュバックそのものは軽めにしつつも、主人公ブルース・ウェインの両親を殺したジョーカーとの戦いをクライマックスに置く事で、ストーリー自体にバットマン登場の由来を盛込んでいるのが特徴だ。
 
 以上の2作品を踏まえて、ライミ監督が【スパイダーマン】で組み立てた構成は、全編を通してピーターの生い立ちを語る事だけだった。それは【バットマン】のそれと似ているようにも見えるが、一つだけ大きな違いがある。事故という「偶然」から超人的な力を授かったピーター・パーカーが、最後に友人の父親と対峙しなくてはならなくなるが、その山を超えた先に彼が得たモノが【バットマン】でブルース・ウェインが得た『安堵感』ではなかった事である。そう、彼が最終的に得る『安堵感』は次回作に棚上げされたのだ。
 
  ヒーローが得る『安堵感』とは何か?それは、正義の味方としての代償なき奉仕をまっとう出来る環境の事を指す。それは、街全体からの熱い信頼や期待感も含まれる。【バットマン】では、ブルース・ウェインが両親の敵討ちが出来た瞬間に目的は達せられ、【バットマン・リターンズ】以降で、はじめて純粋な正義のヒーローとしての活躍が見られるわけだが、【スパイダーマン】で、ピーターは偶然手に入れた能力を社会への貢献ではなく、あくまでも自分の為に使い結局それが悪い方向ばかりに転じて(育ての親である叔父が殺された事も含める)、友人の父親(グリーン・ゴブリン)と戦う事になるのも、彼自体がその原因を作ってしまっている。つまり、ピーターはグリーン・ゴブリンを倒したところで、街の正義の味方という認知を自他共に得る事は出来なかったと言える。正直に言うと、それが前作を観て消化不良に思えた最大の要因だった。しかし、続編を見据えたライミ監督はあえて1作目で主人公の悩みを解決させなかったのだ。このシリーズに面白い要素はいくらでもある、どうせならそれは小出しにしていこう!と狙ったように、【スパイダーマン2】では、ピーターが抱える悩みの続きから始まるのだ。
 
  さて、【スパイダーマン2】に登場するDr.オクトパス(以下ドック・オック)は原作シリーズの中でも一番ファンに支持されてきたキャラクターらしい。あるエピソードでは、ピーターの育ての親、メイ伯母さんをさらって結婚しようと企んだ事もあるドック・オックは、最近オープンしたユニバーサル・スタジオ・ジャパンのアトラクションにも登場するほど、その知名度は高い。当然、1作目の敵役として期待されていたのを2作目に持って来た裏には、ピーターがヒーローとして自覚するストーリーと合致させた方が、よりドラマチックな展開が広がると計算していたからなのだろう。コミック・ファンは、1作目を観終わった時点ですでに、監督の策略が読めたのかもしれない。こうして、コアなファン達の新たな楽しみは、続編完成までの2年間で、膨らむだけ膨らんだばかりでなく、彼らからの口コミによりコミックを知らない層にも2作目への高い期待度は浸透していき、ライミ監督の狙いは結果的に成功したと言えるだろう。
 
  それでも、期待が大き過ぎて、観終わった後に肩すかしを食らう場合もあるのだが、ライミ監督は1作目の爆発的ヒットのおかげで、それまでの作品で培ってきた独自のテイストを本作で思う存分発揮する権利を得た事と、ベテラン脚本家、アルヴィン・サージェント(【普通の人々】【ジュリア】でアカデミー賞脚色賞を受賞)が、登場人物の心理に焦点を当てアクションと人間ドラマのバランスが均等に取れた素晴らしい脚本を書き上げた事で、作品の出来に相当の自信を持ったはずである。そう。本作を傑作と誰もが思った一番の要因は、キャラクターの心理にするどいメスを入れたドラマ部分の完成度の高さにあるのだ。
 
  先述のピーターが抱える悩みは本作の後半まで引っ張る事になるが、元来【スパイダーマン】という話は、他のヒーローモノと違って主要人物の全員が不幸な人生を送っている。本作の敵役のドック・オックは、画期的なエネルギーの発表を急いだばかりに、自分を含めた家族に悲劇をもたらす事になる。また、ヒロインのメリー・ジェーン(以降M・J)は、念願の舞台女優にはなれたものの、一度きりのスパイダーマンとのキスが忘れられず、また同時にピーターへの素直な気持ちも分らないまま毎日を過ごしている。ピーターの親友、ハリー・オズボーンは、父親亡き後に事業を引き継いだものの、親の敵であるスパイダーマンへの復讐心が消える事がない。ピーターとの友情は保ちつつも、スパイダーマンを個人的に知るピーターに、時折強い憎しみさえ憶えるのだった。
 
  更にメイ伯母さんに至っては、ベン伯父さん亡き後収入源も無くなり、家を追い出されそうなほど貧窮な生活を余儀なくされる。もちろん、ピーター自身もヒーローに似合わず最低な生活振りである。大学を通いつつ生活費をアルバイトを掛け持ちで稼ぐ毎日を送る彼だが、結局両立出来ずにどん底暮らしの中で家賃もろくに払えない状態にいる。時々スパイダーマンとして人助けをするが、感謝こそされ金になるわけでなし。新聞社では「スパイダーマン」の写真を唯一撮るカメラマンとして以外は、全くの用無しで、その「スパイダーマン」さえも、新聞社に悪役呼ばわりされる始末。彼が抱え込む悩みは彼自身の生活はおろか、心も次第に蝕んでゆくのである。
 
  こうした、苦しい境遇に立たされた登場人物達の原因が、すべて1作目から波及されているというのが面白い。当然、本作ではこうした苦しみから脱出するために奮闘努力するキャラクター達のドラマが見どころになる。あえて、ストーリーは明かさないが、これだけの条件が揃っていて面白い作品が出来ない訳はない。手に汗握るアクションとナンセンスな笑いを織りまぜながら、物語が進むにつれ登場人物達が希望の見える方向へと向かってゆく様を楽しみながら映画を鑑賞している間に、すっかりキャラクターに感情移入までしている自分に気が付くのだ。
 
  もし、あまり映画を観る時間が無い人がいたとしたら、声を大にして言いたい。「スパイダーマン2」は押さえておけよ!と。本作の出来から結果的に前作も再評価した自分であるが、天才と呼ばれたサム・ライミの独特なセンスとテイストは【死霊のはらわたII】からの発展形として本作で、ついにその完成を見たと言っても過言ではないだろう。

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