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クレヨンしんちゃん 嵐を呼ぶ モーレツ!! オトナ帝国の逆襲 日本 2001 122分 VISTA SIZE 評価☆☆☆☆

2003年7月31日初稿執筆・2004年6月29日追加執筆

 友人に勧められて、ついに観る機会が出来た【クレヨンしんちゃん 嵐を呼ぶ モーレツ!! オトナ帝国の逆襲】。なんと、長いタイトルなのだろう。子供向けアニメ映画と、一概に馬鹿にも出来ない口コミによる評判は、すでに巷でカルト映画化するなど、もはや避けて通る訳にはいかなかった。

 
さて、観終わってからの 感想なのだが,ううむ、何と言ったら良いのか、実際言葉に詰まってしまう。これは、本当に子供向けの話なのか?【クレヨンしんちゃん】を観にくる子供の平均年齢は一体いくつなんだ?と不思議に思った。その理由を紐解く所からこの作品に批評を始めたいと思う。

 まず、この映画、現在35歳から40歳までの1970年と言う時代に、かろうじて幼児または子供だった大人にのみ向け、何かしらのメッセージを送り続けている節がある。それが終始一貫、ストーリーの中に盛り込まれているのだ。

  これを観た人の大半は上記に該当する年齢で、【しんちゃん】と同じ年齢の子供がいる人が多いと思われるが、彼等と一緒に連れてこられた子供達は、はたしてどういうメッセージを受け取るのだろうか?

 

ストーリーは、昔を懐かしむ親が、子供を無視して自分の為に、思い出グッズや雰囲気満載の遊園地に行くわけだが、連れてこられた子供達には、親を魅了した昔のキャラクターなど知る良しもなく、興味の対象にも値しない。やはり、子供らしい本音としては、自分達が楽しんでいる今の遊びやヒーローのいる遊園地に行きたいのだ。このくだりを観ていて「へぇ〜。なるほど」と感心してしまった。
 
  つい最近、【サンダーバード】が日曜日の夜7時からNHK教育で再放送され(現在は放映日時は変更されている)、その後に【ひょっこりひょうたん島】を放映している。どちらも、本放送時代には自分も生まれていない程の古い作品だが、最新の技術で古さを感じさせない画質なのだ。時間にしても子供の為に放送していると思ったので、同じ世代の友人と、「やはり、良い作品は時代を経ても子供に愛されるのだね。」と意見を交わしあったばかりだったのだが、この映画を観てから、全く考え方が変わってしまった。実際、古いモノはやっぱり子供には古くさく映っているもの(今時の子供は人形劇をちゃちなセットで観るのなんて耐えられない!)で、大人が勝手に勘違いをしているだけなのだと。つまり、【サンダーバード】にしても【ひょっこりひょうたん島】にしても、放送されている本当のターゲットは大人だけだったのだと自覚したのだ。自分は所帯持ちでは無いから、どうにも検証しようが無いが、子供は全然これらに興味を示していないのが事実なのかもしれない。 


 そんな事実を再確認しながら本作品に戻ると、話の中心になっているものがなんと、70年代の象徴的イベントであった、大阪万博なのだ。大阪万国博覧会は70年に開催された世界的にも歴史的にも規模の大きかった博覧会だが、憶えている年代層は間違いなく現在40歳以上であろう。そうなると、30代の親にしても懐かしいモノとも言いがたい。ただ、最近の70年代ブームにより、20代から30代の年齢層にもなんとなく当時の盛り上がりを共感させる部分があると思う。現在も、太陽の塔などのオブジェも残されているので当時の様子が偲ばれるのだ。疑似体験らしき感覚は、情報が多々インターネットを通して手に入るおかげかもしれない。あるHPでは、万博当時の写真を多く掲載し、各パビリオンの様子を丁寧に説明しているのだ。そして、このページ等の情報から、【オトナ帝国…】では万博に対する描写が、非常に正確だと言える。そこで、再び疑問が湧くのである。結局、この作品を通して、子供にはどんなメッセージが伝わったのか?また、子供達はこの懐古主義の作品のどの部分に面白さを見いだせるのだろうか?

 
確かに、大人には面白い映画だと思う。幼稚園バスと、山の様なスバル360のカーチェースも、リーダーの乗るトヨタ2000GTが、ちょっと擦られて彼がブチ切れるシーンなどなど。あらゆる所でパロディが散りばめられているのも元ネタが分かると面白かったりする。でも、悪役のリーダーであるケンのメッセージや、『同棲』『心中』『哀愁』を彷佛とさせる描写がどれも、「子供に分かる話じゃないだろ?」子供の立場になって考えてみると、怒りさえ憶えてしまう。

  そんな主演のしんちゃんを中心とした幼稚園児達の怒りを、同世代の子供達が共感していたら、それはホントに凄い影響力なのかもしれない。それでも、子供が連携してバスを運転(しかもマニュアル運転!)するのを観て、自分もそんな経験に憧れる、なんて思われていたらこれは恐怖だが(まあ、それは無いかな)、自分はあまりにも奇妙な展開に、驚愕と困惑を隠し切れないのだ。その反面、大人として終止笑いも止まらなかった。総合評価としては、星は4つを付けてみた。何だかんだ言っても、エンターテイメント性もしっかりしていたのが評価の高さの一番に理由である。

  しんちゃんは最後にこう言う。『おらは、ただ今のパパやママ、そしてひまわりと暮らしたいだけなんだ』(そんな感じの意味)それは、20年〜30年以上前のグッズやキャラクターが氾濫している今、それにうつつを抜かしている大人に、もっと現実を見てくれ!、と子供からのメッセージを代弁しているかに見える。もしそれが製作者の本意なら、映画を見終わった時、連れて来た子供から『アンタも思い当たる事してませんか?』と目で訴えられている親の気まずい雰囲気があるだろう。その後、コンビニで絶対に『ガンダム』『世界名作劇場』グッズに見とれる姿は子供には見せられませんぜ。

  ううむ…、どうにも結論が出せないのだが、この映画を観た事で久しぶりにアルバムを見る機会が出来てよかった(参考資料として、当時万博に行った自分の写真を眺めてみた。とは言っても、物心がつく前の頃なので記憶には無い!)などと言ってみる。それから、超合金やミニカーの復刻版を喜んで買う自分はやはりこの映画の大人と同じなのだろうか。『懐古主義』は聞こえは良いが、『昔』の良さばかり追って(実際は、それが思い出の中で美化されているのも知らずに)ほんわり生きている人間のようで、そんな人生は歩みたくない。こんなに考えさせられるアニメ映画(笑)は、押井守監督の「うる星やつら2 ビューティフル・ドリーマー」以来である。
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