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ファム・ファタール Famme Fatale 米国 2002 115分 VISTA SIZE 評価☆☆☆☆★

2003年8月25日初稿執筆(後、加筆・修正)

 尊敬してやまないブライアン・デ・パルマ監督の久しぶりの新作がやって来た。前作の【ミッション・トゥ・マーズ】は彼らしい映像が、観られなかったので本来の意味で【スネーク・アイズ】以来のサスペンス映画だと言うのが観る前の印象である。

  また、音楽をやはり【スネーク・アイズ】で担当した坂本龍一が再び提供するとあっては、これは真っ先に観ないといけないな、と半ば焦り気味でシネコンに行って来た。この時期のシネコンはお盆は過ぎたものの、まだまだ夏休みモード全開で、【マトリックス・リローデッド】や【ハルク』】【ターミネータ3】【パイレーツ・オブ・カリビアン】【踊る大走査線2】などなど、夏休み映画がひしめく中で、ひっそりと始まった感がある。まあ、左のチラシからも一目瞭然で、全体からかもし出す限りなくアダルトな映画である。他の派手なエンターテイメント映画とは雰囲気も違って見えよう。しかし、地味とは言いながらも、
実際にチケットを購入し劇場に入ったら、観客が少なかった。これはちょっと残念である。本当に物好きしか観に来ていないのかな?と不安もあった。

 さて本作だが、まず結論から言うと『面白い!!』の一言につきる。坂本龍一の音楽も「ボレロ」調という新しいジャンルの音楽を提供しながらも、映画とほど良くマッチしていて◎。肝心のデ・パルマ節はどうかと言うと…これも、かつての『ファントム・オブ・パラダイス』や『ミッドナイト・クロス』『殺しのドレス』など傑作を生み出した頃の原点に戻っ小作品ながらひねりがあり、彼独特のカット割りと撮影方法がてんこ盛りだったのだ。  

 やはりデ・パルマ監督と言えば、最良のB級作品を作る監督なので(これは賛辞である。念のため)、へたに大金をかけた超大作は、彼のテイストにハマらない場合が多い。例えば、【ミッション・インポッシブル】である。決して嫌いな作品ではないが、彼が得意とする俯瞰(天井から見下ろすカット)や、2画面構成などが、どうにも蛇足的に見えてしまう。もっと、エンターテイメント映画らしく、お気楽な作り方をすれば良かったのに、これ見よがしに凝った映像が逆効果を生んでいしまった感がある。

  結局の所、ブライアン・デ・パルマ監督は普通に映画が撮れない人なのだ。初期の作品から、ヒッチコックの手法を真似たりする事で有名になったが、新しいカメラ(ステディ・カムと言う商標の絶対に手ブレの無い手持ちカメラ)の登場で、ヒッチコック時代には不可能だった、超長廻しショット(古くは【虚栄のかがり火】のオープニングから始まり、【スネーク・アイズ】の驚異的長廻しショット)が、その代表格と言える。

また、 主観カメラ(カメラ自体が主人公の目の代わりになって、他の人物がカメラ目線で会話をしたりする。面白いのは正面に鏡があっても決してカメラが映る事は無く、カメラのある場所に立つ本人が映っていたり、当人の手が画面の下に映っていたりすること。アダルト業界のハメ撮りと類似し紛らわしいが、こちらはれっきとしたハイ・テクニックのカメラ技術である。)もデ・パルマ監督作品には頻繁に登場する。 これらの映像マジックを多用するのが、まさに『デ・パルマ・カット』と呼ばれる所以であり、その手法は彼以外は決して足を踏み入れない領域である(タランティーノ監督が、オマージュとしてこれらの手法を使用する場合がある。)。

  他にも、アングルが違うカメラが同時に同じ対象物を捉えてその様子を画面を半分ずつに分けて見せる2画面構成などもあるが、いずれにせよ、彼の映像遊びは超大作にもアクション映画にも似つかわしくなく、ことごとく、ミステリー映画の演出に向いているのだ。今回、この映画を観て一番嬉しかったのは彼が使ういつもの手法が似合う話を彼自身が書いた事(脚本も担当したこと)で、「これで俺の好きな様にさせてくれ」と彼がほくそ笑む姿が想像出来るのだ。

  さて、上のチラシでも堂々と描かれている『ショパール』のビスチェについて触れてみよう。『ショパール』は実在するスイスの老舗ブランドで、映画に出てくるビスチェ(まるでアルフォンス・ミュシャがサラ・ベルナールに贈った蛇のブレスレットそっくり)はパンフレットによると、510個・385カラットのダイヤが散りばめられた、本物の純金製ビスチェなのである。先日、史上初の試みで東京の宝塚劇場で試写会を行った際にこの映画に使用したビスチェのファッションショーのおまけがあったそうだが、このビスチェはまさに官能のフレグランスそのものである。

  ヨーロッパの文化がどれだけオープンなのか分からないが、ショパールのビスチェを纏うスーパーモデル(リエ・ラスムッセン)は、果たしてこの斬新なブラで隠すべき所を隠さず堂々とレッドカーペットを歩いているのだ。これこそ、まさに【殺しのドレス】でデ・パルマが確立したエロスの究極の手法である。しかしその水面下ではこの1000万ドル級のビスチェを冷静に見つめる強盗団がいる。その色気とシリアスの対比が更に映画的美を助長している。このシーンを観るだけでもう1300円の価値ありと見た。

  この作品に於いて 特筆すべきは 、とにかく脚本の出来が本当に良い事である。1時間55分の上映時間も、全くその長さを感じさせない無駄の無い構成。映画とはまさにこうあるべき、ある意味でエンターテイメント性に有り溢れている。ただし、これ以上中身には触れないつもりだ。とにかく、本作を観て欲しい。

  なお、この映画はアメリカ映画と言う事になっているが、どこまでもフランス映画のテイストが濃い。余談だが、デ・パルマにしては珍しくシネスコサイズでは無くヴィスタ・サイズを採用している。また、主演のレベッカ・ローミン=ステイモス(X-メンのミスティーク役)とお馴染みアントニオ・バンデラス(この人は今や【スパイキッズ】のパパ役しかイメージが湧かないが(ようやく、2004年になり、【レジェンド・オブ・メキシコ】と彼本来のイメージキャラクター作品が登場したのでひとまず安心である。)【E.T.】のピーター・コヨーテ(懐かしい!)や【TAXI】シリーズの刑事役で有名なフランスの俳優、エドュアルド・モントートなど多彩な顔ぶれが脇を固めていてなかなか面白い。

  くせ のある作品だが、絶対的な面白さと映画的な美を両立させた傑作ミステリーだと言う事で今回の期待は裏切られなかったのが嬉しい限りである*

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