ついに全米でも公開となった『キル・ビルVol.2』である。本来の予定であった2月から2か月遅れで届けられた(日本の公開予定日は予定通りとなったが…)続篇は上映時も137分と堂々としたものになった。ここに早速、丸の内ピカデリーにてアメリカ初日と同日に先行上映されたvol.2の鑑賞報告をしたいと思う。勿論今回はネタばれ無しのコラムである。
まず、驚かされたのが『vol.1』とのテイストの違いである。今さら言うまでもなく、『vol.1』の作風は、一言でファンタジー・アクション映画。アメリカの映画のみならず、70年代頃の日本の娯楽映画にあった血みどろのチャンバラ・アクション映画の手法やアイデアをことごとく採用し、東京を舞台にアメリカの俳優と日本人俳優が共演したり(日本語での会話のやりとりもさせる等)、また日本のプロダクションにアニメパートの制作を委託するなど、アメリカ映画なのに日本テイストが強くて、それでいてエンターテイメント色も強調された異色な作品として賛否両論の的にもなった。元来、昔の娯楽映画などにあった要素をそのまま自分の作品に取り込むのがタランティーノ監督のやりかたなのだが、『キル・ビル vol.1』はその集大成とも言える。特に音楽やセリフ、シチュエーションや出演俳優など、自分がリスペクトしている映画の要素はまるごといただいて、独自の世界に当て込むなどの、いわゆる映像のサンプリングを好き放題しているので、当然、一般的には理解不能な部分もあるが、単純に面白いモノを見せるという点では非常に計算高いやり方である。
パクリ映画のように見え、それでいて陳腐にならないのは、ひとえにタランティーノの脚本が素晴らしいからに尽きる。これは『レザボア・ドッグス』から変わっていないのだが、彼の作品ではキャラクターのセリフにリアリティがあり、またウィットに富み、何にしてもカッコイイのだ。カッコイイ台詞のキャラクターは自然にカッコイイキャラに見えるのである。とにかく、『キル・ビル vol.1』はその魅力に取り憑かれると振払う事さえ難かしいのだ。

キル・ビル Kill Bill vol.2
2004年作品 MIRAMAX シネマスコープ 137分
製作 ローレンス・ベンダー
監督 クエンティン・タランティーノ
出演 ユマ・サーマン ダリル・ハンナ デヴィッド・キャラダイン マイケル・マドセン サミュエル・L・ジャクソン ect.

閑話休題 、話は『vol.2』である。『vol.1』は思いきり途中で終わる形になっているので、当然『vol.2』はその続きから始まる。また、最近のシリーズものの傾向として、前作を観ていない観客へのサービスは全く無く、前振りが無いので『vol.2』に興味がある人は『vol.1』のDVDをレンタルするなどして補足する必要が有る。しかし、前作のテイストに辟易して『vol.2』に興味が無い!と思っている人へ言いたい。『vol.2』は『vol.1』と作風が全く違うのだ!さらに付け加えるなら、『vol.2』は『パルプ・フィクション』や『レザボア・ドッグス』が好きな人なら絶対に満足する作品に仕上がっている。実は単純なエンターテイメント映画ではなく、深いテーマがこの作品の根底にはある。それが『母性愛』である。現在、日本の配給元であるGAGAが『KILL IS LOVE』と言う珍妙な英語のキャッチコピーで、この作品をラブストーリーと銘打って宣伝しているが、一概に間違いとも言えなくない。しかし、恋愛映画と言う意味とは次元が違うのでGAGAの宣伝展開にはひどい誤解を招くことこの上ない。この作品で強調されている『母性愛』または『親子の愛情』は、シングルマザーという環境から育ったタランティーノ自身の思いが込められているのだろう。だからこそ、彼が子供の頃から親しんだ70年代の娯楽映画(それもB級モノ)、や日本映画や香港映画の英語吹き替え版のテレビ放送されたものからインスピレーションを受けた作風でこのシリーズを固めたのかもしれない。まさにタランティーノの心情を映像で表現したものこそ『キル・ビル』というトータルにして4時間超になるサーガなのかもしれない。『vol.2』は、とにかく台詞が多い。その分アクションは控えめでいつものタランティーノ作品のようになっている。台詞の量はくどい位に多いのだが、何故か全然気にならない。今回も台詞が生きているからである。そして、ドラマ部分とアクションパートのバランスが絶妙なのだ。詰まる所、静と動の駆け引きが程良く調整されている。したがって、2時間20分も辛くない。また、今回も時間軸はタランティーノらしくいじられている。もちろん、『vol.1』で残された数々の謎は『vol.2』では全て解決されている。映像的にも全く新しい試みもあったし、今回は前作の日本映画への強いオマージュ色からうって変わって香港映画とマカロニ・ウエスタン映画のテイストが散りばめられている。音楽もエンリオ・モリコーネを初めとしたマカロニ・ウエスタンの映画音楽からの引用を初め、99年のオルタナ系のミュージシャンの曲をテーマ曲に置いたり、クレジット・タイトルのロゴやフォントまで昔風にするなど遊びもいっぱい。しかしあくまで、ドラマ重視の『キル・ビル vol.2』。『vol.1』が気に入っている人は勿論、『パルプ・フィクション』が好きな人にもお勧めである。ただし、『vol.1』は観てから行かないと全く意味不明になってしまう。『vol.1』が辛かった人(血みどろ描写が半端では無いから)。安心して欲しい。今回はドラマの方に力が入っているの残酷なシーンは少なくなっている。ただ、少ないだけで残酷な描写が無いと言う訳ではないのでそこの辺りは、理解して欲しい。この描写の詳細は後に書く事にする。
取り敢えず、今回はここまで。日本公開までもう少しだが、期待以上の出来であると断言する。それでは、part2からhが恒例のネタばれ検証批評をしようと思う。
 
 
 
 
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