時は1991年の夏、後にバブルの時代と呼ばれた最後の年。この7月に僕は渡米した。目的は留学である。更に付け加えれば、映画の勉強をするためにロスの南カリフォルニア大学の映画学科に行ったのだ。陳腐だが理由も簡単。ジョージ・ルーカスに憧れて彼の母校で最高の学問を得ようとしたのだ。しかし当時の自分は普通の大学生と同じ英語力しか持ち合わせていなかった。英検では2級を大学1年の時に受けたのみ、7月の渡米までには留学準備生の為の講習も受けたりしたのだが、使える英語を習得することは日本にいては不可能だった。当然ロスの空港に一人っきりで降り立った時点で、英語のコミュニケーションでかなり困り果てた。アメリカに到着して取りあえず学校側が推薦したホテルに数日滞在し、学校側での受け入れ態勢が整い次第、ドミトリー(学生向けの寄宿舎)に入れる段取りだったのだが、それを文章にした紙を何度も読み返してやっと理解出来る始末。自分は来たのは良いが本当にこの地で本当に好きな事を学ぶ事が出来るのかとても不安になった。ロスに到着して数日の内に、世界ではソビエト連邦が崩壊し、ロシアに戻ったという大きな出来事が起きている。しかし、自分に直面する問題は世界情勢とはほど遠いものであったのだ。
しかし、今回久しぶりのDiaryで書くつもりの話は違う内容なのだ。だから、南カリフォルニア大学映画学科の話はここで結論だけ書いて先に進もう。92年の9月から入学する予定で4か月掛けて入学に必要な書類を作成し、東京の大学の教授数人の推薦状を集め、万全の態勢で臨んだが門戸は開く事は無かった。アメリカの大学にしては珍しく倍率の高く人気もある学科で30倍とも40倍とも言われている映画学科に結局入れなかった。その代わりに、カリフォルニア州立大ノースリッジ校が入学を認めてくれた。それから約4年かけて様々な事を習い、卒業も出来た。この話はいずれ詳しく書くつもりである。
さて、話を1991年に戻そう。今回の写真は現在の自宅シアターの80インチスクリーンの様子を収めたものである。映画は『ターミネータ2』である。そう、この映画こそまさに自分がアメリカに着いて不安が隠せない中で初めて映画館に入って観た思い出の映画なのだ。自宅シアターの80インチでシネマスコープ・サイズ幅177cm高さ75cmくらいになるのだが、距離にして5mくらい離れて観ているのでかなり迫力がある。しかしプロジェクターもスクリーンも安価で手軽なものにした。今は液晶プロジェクターも8畳くらいの部屋で立派にこの位のスクリーンに出来るのだ。PanasonicのTH AE-100というプロジェクターを通販で半額以下で手に入れ、スクリーンも天井に引っ掛けるフックを自作し、サイズと品質だけこだわって後は毎回自分で微調節をしないときちんと投影されない上に、定員が最大3名までしか許せない狭い環境でほとんどの場合一人で観ているのである。
また、脱線してしまったが、この『ターミネータ2』は当時本当に面白い映画だと思った。それと、現在立川シネマシティで体感できるDCS方式(Digitally Controlled Sound)で上映している映画館があり、それまで映画で聴ける音響全てを凌駕していたのを思い出したのだ。現在、ワイドスクリーンのコーナーで少しずつ今まで個人的に調べ上げて来た映画の上映方式と音響システムのコラムを小出しに発表しているのだが、その合間にこうして当時を思い出しながら先日購入した『ターミネーター2』のDVDをDTS(デジタル・シアター・システム)音声で鑑賞しているのだが、本来はDolby Digitalが出来上がる前のデジタル・マトリックス・システムを採用し、専門の劇場ではDCS方式で上映していたのだ。しかし、映画の都ロスでさえ、当時DCS方式で上映出来た映画館は2館しか存在せず、他の映画館では70mmフィルムに拡大して6チャンネル(現在で言う5.1チャンネルサラウンド)か、Dolby Spectral Recordingに変換していた。つまり全くのアナログ方式で上映していたのだ。それで、現在DTS音声で楽しめる『ターミネーター2』は明らかに当時の世界初のDCS方式の音声をマスターとして使ったいる訳である。
日記でこんなに専門的な話をするのもどうかと思うが、書き出すと止まらない。最後に、様々な音響方式の第一号作品を羅列しておく。
DTS方式映画第一号作品はスピルバーグの『Jurassic Park』
Dolby Digitalの第一号作品はワーナーブラザース映画『BATMAN RETURNS』
更に音域を広げたDolby Digital Spectral Recording第一号作品は、コッポラの『ドラキュラ』
Dolby DigitalやDTSに対抗してソニーが発表した8チャンネルサラウンドシステムSony Dynamic Digital Soundは
シュワルツェネガーの大失敗作『ラスト・アクション・ヒーロー』
ドルビー研究所とルーカスのスカイウォーカー・サウンドが発表したDolby Digital Suround EXは
『スターウォーズ:エピソードI:ファントム・メナス』から始まった
更に、『スターウォーズ』自体も初のアナログ式のDolby Stereo(当時の呼び名はDolby System)の第一号であった
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